【分類:日常の心理】
あるSNSの投稿が削除された。
残っているのは、
「先ほどの投稿は削除しました」
という一文だけ。
するとコメント欄では、
「何が書いてあったの?」
「スクショ持ってる人いない?」
と、消えた投稿の捜索が始まります。
動画でも同じです。普通に公開されていたころは知らなかったのに、「運営に削除された動画」と聞いた途端、
「何で削除されたんだ?」
と見たくなる。
削除される前は一度も見ようと思わなかったのに、見られなくなってから探し始める。人はなかなか身勝手なものです。
もちろん、削除によって情報そのものが拡散する現象には「ストライサンド効果」など別の話も関係します。
今回見たいのは、その一歩手前。
なぜ人は「見るな」「するな」「選べない」と言われた途端、それまで以上にその対象を意識してしまうのか。
日本では、こうした現象が一般に「カリギュラ効果」と呼ばれています。
「絶対に検索しないで」と言われたら、検索したくなる
カリギュラ効果の定番例なら、これが一番分かりやすいでしょう。
SNSを眺めていると、
「この言葉だけは絶対に検索しないでください」
という投稿が流れてくる。
数秒前まで、その言葉の存在すら知りませんでした。それなのに「検索するな」と言われたせいで、自然と検索欄に打ち込んでしまう。
何も言われなければ、一生検索しなかった可能性すらあります。
カリギュラ効果とは一般に、何かを禁止されたり制限されたりしたことで、かえってその行動や情報を求めたくなる現象を指して使われます。
ただ、「禁止」という言葉に人間が自動反応しているわけではありません。
心理学でここを考えるときに出てくるのが、心理的リアクタンスです。
「見たい」より先に「自分で決めたい」がある
心理学者Jack W. Brehmは1966年、『A Theory of Psychological Reactance』で心理的リアクタンスの理論をまとめました。
ざっくり言えば、
自分には選ぶ自由があると思っていたのに、その自由を誰かから奪われそうになると、取り戻したくなる
という考え方です。
たとえば、
「その動画、私は苦手だった」
と言われるのと、
「その動画は絶対見るな」
と言われるのでは、受け取り方が違います。
前者は相手の感想です。
後者は、こちらの行動まで決めに来ています。
この瞬間から問題が「その動画を見る価値があるか」だけではなくなり、
「見るかどうかくらい自分で決める」
が加わってきます。
カリギュラ効果のおもしろいところは、禁止された物そのものより、自分の選択を取り戻そうとしている場合があることです。
選べなくなったレコードは、本当に魅力が増すのか
Brehm、Stires、Sensenig、Shabanは1966年、この考え方にかなり近い実験を行っています。
参加した大学生は、4枚の音楽レコードを評価し、その中から自分がもらうレコードを選べると伝えられました。
ところが途中で、一部の参加者には、もともと選択肢に入っていたレコードの一つが選べなくなったと伝えます。
すると、最初は3番目に評価されていたレコードが選択肢から外された場合、そのレコードの評価が上がりました。
さらに2つ目の実験では、最初から選択の自由が与えられていなかった参加者では同じ反応は見られず、むしろ選べなくなったレコードの評価は下がる傾向がありました。
ここが大事です。
単に「手に入らないものは全部欲しくなる」という結果ではありません。
最初は自分で選べると思っていたのに、途中からその選択肢を奪われた。
この順番があったとき、失った選択肢の評価が変わっています。
カリギュラ効果を考えるときも、「禁止された物が急に魅力的になった」とだけ見るより、自分で選べていたものを他人から止められたという部分まで見たほうが分かりやすいでしょう。
恋人から「その人とはもう連絡しないで」と言われたら
この心理は、人間関係に入るともう少し複雑になります。
たとえば、昔から連絡を取っている異性の友人がいる。恋愛感情はなく、たまにLINEをする程度です。
もちろん恋人同士なら、異性との付き合い方にある程度の線引きが必要になることもあります。毎晩二人きりで電話していたり、恋人に言わず頻繁に会っていたりするなら、「それはちょっとおかしくない?」と言われても反論の余地はありません。
でも、昔からの友人とたまに連絡する程度なのに、理由も聞かされず、
「その人とはもう連絡取らないで」
と言われたら、
「恋人だからって、誰と連絡するかまで全部決められないといけないの?」
と反発する人もいるでしょう。
ここで起きているのは、異性の友人を急に好きになったというより、自分の交友関係まで一方的に決められたことへの反発かもしれません。
逆に恋人から、
「前にその人とのことでこういうことがあって、正直ちょっと心配なんだ」
と理由まで伝えられたら、
「そんなことがあったとは知らなかった。ごめん」
と話が収まることもあります。
禁止する前に事情を伝えるだけで、余計な喧嘩を避けられるかもしれません。要は、同じ内容でも伝え方でかなり違ってきます。
「閲覧注意」は、本当に見る人を減らしている?
禁止や警告そのものを扱った研究もあります。
Brad BushmanとAngela Stackは1996年、暴力的なテレビ番組につけられた警告表示が、その番組への関心にどう影響するのかを3つの実験で調べました。
考え方は単純です。
「暴力的な内容が含まれています」
という警告を出せば、
「じゃあ見ないでおこう」
となるのか。
それとも、
「そこまで言われると、どんな内容なんだ?」
となるのか。
実験1では、警告ラベルによって暴力番組への関心が高まり、とくに警告を出している相手に権威がある場合にその傾向が見られました。
実験2では、もともと心理的リアクタンスを起こしやすい人ほど、警告ラベルのついた番組を見たいと答えました。実験3でも、単なる番組情報として表示するより、「警告」として表示した場合のほうが関心が高まっています。
注意する側としては、
「見てほしくないから注意しているんだけど」
と言いたくなる結果です。
とはいえ、この研究で使われたのは暴力的なテレビ番組です。
「閲覧注意と書けば何でも人気になる」という研究ではありません。
削除された投稿や動画を探したくなるのもカリギュラ効果?
冒頭のSNSへ戻ります。
ある有名人が投稿を削除した。
すると、
「削除された投稿の内容」
「削除前のスクショ」
という別の投稿が次々に出てくる。
動画でも、
「運営に削除された動画」
「削除された幻の回」
のような言葉が付いた途端、それまで知らなかった人まで内容を探し始めることがあります。
ここには二つの話が混ざっています。
一つは、
「もう見られない」「見るな」と言われたことで、自分が見たくなる心理。
こちらはカリギュラ効果や心理的リアクタンスとつなげて考えやすい部分です。
もう一つは、削除や規制そのものがニュースになり、結果として情報が以前より広く知られてしまうこと。
こちらは「ストライサンド効果」と呼ばれる現象に近くなります。
たとえば自分一人が、
「消されたなら見てみたい」
と思うことと、
削除騒動がニュースになって何万人にも存在を知られることは、同じではありません。
ただ現実のSNSでは、この二つが一緒に起こります。
誰かが投稿を消す。
別の人が「消された」と投稿する。
それを見た人が探し、さらにスクリーンショットが広がる。
結果として、削除する前より多くの人が内容を知ることもあります。
見られないように消したはずなのに、かえって前より広まってしまったら本末転倒です。
「禁止された本ほど読まれる」は本当なのか
では、もっと大きな規模で本を禁止したらどうなるのでしょう。
ここは、カリギュラ効果を簡単に説明しすぎないためにも面白いところです。
2024年、Goncalvesらは、2021〜2022年度にアメリカで起きた2,532件の学校での書籍禁止を分析しました。
Google検索や書籍販売データを調べると、禁止後の全国的なGoogle検索は約1%増えていましたが、販売には有意な増加が確認されませんでした。州レベルの検索でも大きな変化は見つかっていません。
研究者たちは、全体として見ると、禁止された本への関心は禁止前も禁止後もかなり低く、禁止によって全国的な注目が大きく増えたとは言いにくいと報告しています。
これだけなら、
「やっぱり禁止したからって、みんな読むわけじゃない」
で終わりそうです。
ところが、2025年に『Marketing Science』へ掲載された別の研究では違う結果が出ています。
Ananthakrishnanらは、アメリカの大規模な図書館貸出データを使い、特に禁止回数の多かった25冊を分析しました。
その結果、禁止後6か月の貸出数は、比較対象の本と比べて平均約12%増加しました。
禁止が行われていない州でも貸出増加が確認され、SNSで話題になった本ほど増加幅が大きい傾向も報告されています。
「じゃあ研究結果が矛盾しているじゃないか」と思うかもしれません。
実際には、調べている対象がかなり違います。
2024年の研究は1,000冊を超える幅広い禁止本を対象に、Google検索や販売などから全体の関心を見ています。
一方、2025年の研究で大きな増加が確認されたのは、何度も禁止されて特に話題になった上位25冊です。
つまり、
本を禁止すれば何でも人気になるわけではない。ただ、何度も禁止され、もともと話題になっている本では、かえって読者が増える場合もある。
というくらいで考えるのがよさそうです。
「禁止=必ず逆効果」と一本線で説明するより、どんな本が、どのくらい話題になっていたのかで結果も変わると見たほうが、実際の研究には合っています。
そもそも、なぜ「カリギュラ効果」という名前なのか
「カリギュラ効果」という呼び名は、1979年の映画『カリギュラ』をめぐる規制に由来すると、日本では広く説明されています。
映画は過激な性的・暴力的描写を含み、イギリスでは1980年にフィルムが税関で押収されました。その後、法的な問題や映画分類上の基準に対応するため50か所以上、合計約11分の映像がカットされ、一部の地方自治体では上映自体も禁止されています。
日本の一般向け解説では、こうした上映規制によって逆に注目が集まったことから「カリギュラ効果」と呼ばれるようになった、と紹介されることがあります。
ただし、映画の規制と人気の因果関係まできれいに証明されているわけではありません。
BBFCの記録では、公開された作品は批評家から低い評価を受け、一般からの抗議も比較的少なかったとされています。
名前の由来として語られるエピソードと、心理学で積み重ねられてきたリアクタンス研究は、分けて見たほうがよさそうです。
絶対見るな」と言えば、本当に相手は見たくなる?
ここまで読むと、
「じゃあ、見てほしいものに『絶対見るな』と書けばいいのでは?」
と思うかもしれません。
実際、広告やSNSでは似た表現を見かけます。
ただ、毎回うまくいくなら、
「絶対に買わないでください」
の一文で広告の仕事はほぼ終わります。
現実にはそうなりません。
興味がまったくない商品なら、そのまま通り過ぎる人もいます。理由に納得できる禁止なら、素直に従うこともあります。
「この先は崖崩れの危険があるため立入禁止」
と書かれているのを見て、
「俺の自由を奪ったな」
と反発する人ばかりではありません。
心理的リアクタンスは、禁止されたら必ず反対の行動を取る仕組みではないからです。
自分が反応しているのは「中身」か「禁止」か
カリギュラ効果を誰かに使うより、自分が何かを禁止されたときに思い出すほうが実用的です。
「絶対に検索するな」を見て検索欄を開いたとき、
その内容は、禁止される前から知りたかったのか。
削除された動画を探しているとき、
動画そのものが見たいのか、「削除された」と聞いたから見たいのか。
恋人に交友関係を制限されて腹が立ったときも、
相手への気持ちの問題なのか、自分で決められないことに反発しているのか。
同じ「やりたい」でも、中身は少しずつ違います。
それが分かったからといって、「絶対検索するな」を完全に無視できるようになるとは限りませんが、分かっていて検索してしまったら、それはそれで人間らしいと言えるでしょう。
まとめ
カリギュラ効果とは一般に、「見るな」「するな」などと禁止されたことで、かえってその対象を求めたくなる現象を指します。
学術的には、Jack W. Brehmがまとめた心理的リアクタンスと関連づけて考えると分かりやすくなります。
Brehmらの1966年の実験では、もともと自由に選べた選択肢が突然なくなることで、その対象の評価が上がるケースが確認されました。BushmanとStackの研究でも、暴力番組への警告が、条件によっては番組への関心を高めています。
一方、現実の書籍禁止を見ると、禁止された本すべてに大きな注目が集まるわけではありません。幅広い禁止本ではほとんど変化が見られなかった研究がある一方、何度も禁止されて話題になった本では貸出が約12%増えた研究もあります。
「禁止されたら必ず欲しくなる」ほど人間は単純ではない。
でも、昨日までどうでもよかったものを「絶対見るな」の一言で検索してしまうくらいには、禁止に振り回されることがあります。
Q&A
カリギュラ効果は正式な心理学用語ですか?
「カリギュラ効果」という名称は日本の一般向け心理学で広く使われていますが、研究では「心理的リアクタンス」という概念が中心です。
そのため、「カリギュラ効果という独立した心理法則が実験で証明された」と説明するより、心理的リアクタンスと関連する現象として扱うほうが正確です。
「絶対に見るな」と書けば、誰でも見たくなりますか?
そういう訳ではありません。
もともとの興味、その自由をどれくらい重要だと感じているか、禁止された理由に納得できるかなどによって、反応は変わってきます。
「絶対検索するな」と書かれていても、知らない単語ならそのまま忘れる人も当然います。
削除された投稿が広まるのもカリギュラ効果ですか?
個人が「削除されたなら見たい」と感じる部分は、カリギュラ効果や心理的リアクタンスと関連づけて考えられます。
一方、削除しようとしたことで話題になり、情報そのものがさらに広く拡散する現象は「ストライサンド効果」と呼ばれることがあります。
現実のSNSでは両方が重なって起きることがあります。
反対された恋愛ほど燃えるのもカリギュラ効果ですか?
心理的リアクタンスが関係する可能性はありますが、「反対されれば必ず恋愛感情が増える」という意味ではありません。
相手を好きになったのか、それとも「自分で決めたい」と反発しているのかは別です。
具体的な問題を指摘されている場合は、その内容まで確認したほうがよいでしょう。
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参考文献・出典
Brehm, J. W., Stires, L. K., Sensenig, J., & Shaban, J. (1966). The Attractiveness of an Eliminated Choice Alternative. Journal of Experimental Social Psychology, 2(3), 301–313.
Bushman, B. J., & Stack, A. D. (1996). Forbidden Fruit Versus Tainted Fruit: Effects of Warning Labels on Attraction to Television Violence. Journal of Experimental Psychology: Applied, 2(3), 207–226.
Goncalves, M. S. O., Langrock, I., LaViolette, J., & Spoon, K. (2024). Book bans in political context: Evidence from US schools. PNAS Nexus, 3(6), pgae197.
Ananthakrishnan, U. M., Basavaraj, N., Karmegam, S. R., Sen, A., & Smith, M. D. (2025). Book Bans in American Libraries: Impact of Politics on Inclusive Content Consumption. Marketing Science, 44(4), 933–953.
British Board of Film Classification. Caligula (1979) — Case Study.