「ピークエンドの法則」――記憶は、全部ではなく“山場と終わり”だけを拾っている


一日の終わりに、
「今日はいい日だったな」と思うときと、
「なんか最悪だった」と感じるときがある。

冷静に振り返れば、
それなりに良いことも悪いことも混ざっていたはずなのに、
最後の一つの出来事だけで、一日全体の印象が塗り替わってしまう

旅行、仕事、恋愛、イベント。
終わったあとの「良かった/微妙だった」の評価は、
実際の“平均”とは、ずいぶんズレていることが多い。

このズレを説明する有名な考え方が、
心理学で言われる 「ピークエンドの法則」 だ。


「ピークエンドの法則」とは何か?

ざっくり言うと、「ピークエンドの法則」は

ある経験全体の印象は、
“いちばん強く感じた瞬間(ピーク)”と
“終わり方(エンド)”で大きく決まってしまう

というもの。

どれくらい長く続いたか、
トータルでどれくらい快適だったか、というよりも、

  • 一番つらかった瞬間
  • 一番うれしかった瞬間
  • 最後がどう終わったか

このあたりが、後から思い出すときの“メイン素材”になる。

つまり、記憶は「平均」ではなく「山場とラスト」を強く残す、という発想だ。


誰が、どんな実験で確かめたのか

この考え方を有名にしたのは、
ノーベル賞を受けた心理学者 ダニエル・カーネマン たちの研究だ。

代表的なのが、医療の場での実験である。

大腸検査の痛みと「また受けてもいいか」の関係

ある研究では、
大腸内視鏡検査を受ける患者に、
検査中の痛みのレベルを少しずつ記録してもらった。

  • 検査時間は人によって違う
  • 痛みが強い時間帯もあれば、少しマシな時間帯もある

終了後に、
「検査全体はどれくらいつらかったか」
「もう一度同じ検査を受けるとしたらどうか」
といった評価もしてもらう。

結果として、
「総合的な痛みの量」が少ない人よりも、

  • ピーク(最大の痛み)がそれほど高くなく、
  • 最後に向かって少しずつ楽になっていった人

のほうが、
「検査はそこまでひどくなかった」と評価し、
「また受けてもいい」と答える傾向があった。

つまり、人は

  • 検査中の痛みの総時間
  • 「合計どれだけつらかったか」

よりも、

  • 一番つらかった瞬間(ピーク)
  • 最後の状態(エンド)

に強く左右されていた。


日常で「あるな」と感じる場面

ピークエンドの法則は、医療だけの話ではない。
むしろ、日常のあちこちに顔を出している。

1. 旅行の「最後の一日」が、全体の印象を決めてしまう

数日間の旅行。
初日と二日目はそこそこ楽しめたのに、
最終日にトラブルが重なる。

  • 飛行機の遅延
  • ホテルでのちょっとしたミス
  • 最後の店が微妙

その結果、
「今回の旅行、あんまり良くなかったな」と感じてしまう。

冷静にリストアップすれば、
いい瞬間もたくさんあったはずなのに、
「最後にガッカリした」という記憶が、全体を塗り替えてしまう

逆に、
途中はいろいろ雑だったとしても、
最後の夜がやたら楽しかったり、
ラストの一皿がおいしすぎたりすると、

「細かいことはいろいろあったけど、
結果的にいい旅だったよね」

という感想にまとまっていく。

2. プレゼンや面談で、終わりの一言が印象を変える

発表の中盤、ちょっと噛んだり、
スライド操作をミスしたりしても、
最後に落ち着いてまとめられると、

「しっかり話せていた」という印象が残る。

逆に、前半がうまくいっていても、
最後の質問対応で慌ててしまうと、
「詰めが甘い」という評価になりやすい。

内容全体よりも、
ラストのまとまり方が、
記憶の中で大きなスペースを取ってしまう。

3. 一日の終わりをどう過ごすかで、“今日”の評価が変わる

日中に嫌なことが重なっても、
夜に落ち着いた時間を少しだけ取れたとき、
その日全体への不満は少し弱まる。

逆に、
そこそこ平和な一日だったのに、
寝る直前にSNSでイライラするものを見てしまうと、

「なんかしんどい一日だったな」

という気分で終わる。

実際に起きた出来事の“総量”よりも、
一日のピーク(強く揺れた瞬間)と、最後の状態
「今日」のラベルを決めてしまう。


こういう話を追いかけているのは、記憶の“偏り”が気になっている人かもしれない

多くの人は、
「印象なんて、だいたい全体を見て決めている」と思っている。

その裏で、

  • 山場だけを切り取って
  • 終わりだけを重く見て

“その経験のすべて”として保存してしまう。

そこに違和感を覚えたり、
「ほんとはもう少しマシだったよな」と感じたりするなら、
あなたはすでに、自分の記憶の偏りが気になっている側だと思う。

それは、悪いことではない。
むしろ、「自分の判断を、少し客観的に見たい」という感覚に近い。


知っていると、「全部悪かった」と切り捨てにくくなる

ピークエンドの法則を知ったからといって、
過去の印象がきれいに塗り替わるわけではない。

でも、

「あの出来事、ラストが最悪だったから全部ダメに見えてるだけかもしれない」
「途中の良かった部分を、ちゃんと見落としてるな」

と気づけるようにはなる。

  • 失敗したプロジェクト
  • ぎくしゃくした関係
  • 行きたかったのに、最後が微妙だったライブ

それらを丸ごと「失敗」と呼ぶ前に、
どこがピークで、どこから崩れたのかを切り分けて見られる。

逆に、
すごく良い記憶に見えるものの中にも、
「一瞬の盛り上がりだけが記憶を支配している」場合がある。

それに気づけると、
過去を美化しすぎたり、
逆に全否定しすぎたりする思考の偏りが緩やかになるかもしれません。


結び

「ピークエンドの法則」は、
人の記憶がいかに“雑に”まとまりやすいかを教えてくれる。

全部を公平に見ているつもりでも、
実際には、山場と終わりだけを拾って、
「こんな出来事だった」とラベルを貼ってしまう。

このサイトでは、
そうした記憶のクセも含めて、
人間の心の“都合の良さ”と“弱さ”を並べていきたい。

もし、何かひとつでも思い当たる経験があったなら、
他の心理の話――群集心理やバーナム効果
メラビアンの法則なども、あわせて覗いてみてほしい。

同じ過去が、
少しだけ違う形で見えてくるかもしれない。