「返報性の原理」とは?|なぜ”してもらうと返したくなる”のか

誰かにちょっとしたお菓子をもらったら、
次会うときに「今度は自分が何か持っていかなきゃ」と思ったことはないでしょうか。

とくに頼まれてもいないのに「お返ししないと落ち着かない」。
このとき静かに働いているのが、「返報性の原理」です。


「返報性の原理」とは何か

「返報性の原理(へんぽうせいのげんり)」は、ざっくり言うと

人は、誰かから何かをしてもらうと、
「自分も何か返さないといけない」と感じやすい

という心理的ルールのことです。

もう少し丁寧に言うと、

  • 親切・好意・プレゼント・手伝いなどを受け取る
  • 自分の中に「借りをつくった」という感覚が生まれる
  • それを解消するために、「何か返したい」という動きが起きる

この流れ全体を指して「返報性の原理」と呼びます。

社会の中で暮らしていくうえで大事な**社会的規範(意味:みんなが守るべきとされている暗黙のルール)**でもあり、
説得や営業、恋愛でもよく使われる心理でもあります。


有名な実験:コーラ一本で売り上げが変わる?

返報性の力を示す研究としてよく紹介されるのが、デニス・リーガン(Dennis Regan)の実験です。

リーガンの「コーラと宝くじ」実験イメージ

だいぶ噛み砕いて紹介します。

  1. 被験者と、仕掛け役の男性が一緒に「絵の評価の実験」に参加している、という設定にする。
  2. 実験の途中で、仕掛け役の男性が部屋を出ていく。
    • A条件:戻ってくるときに、被験者の分のコーラを「ついでに買ってきたよ」と渡す
    • B条件:自分の分だけ買ってきて、被験者には何もしない
  3. その後で、その仕掛け役が被験者にこう頼む。
    「実は、自分が売っている宝くじがあるんだけど、何枚か買ってくれない?」

結果として──

  • コーラをもらった人は、もらっていない人よりも明らかに多く宝くじを買ってくれた、という傾向が見られました。

つまり、

たった一本の安いコーラでも、「何かしてもらった」という事実があると、
「お返ししたい」という気持ちから、相手のお願いを聞きやすくなる

ことが示されたわけです。


日常にある「返報性の原理」あるある

難しい話を一度横に置いて、日常のシーンで見てみます。

1. 職場での「お土産」や「差し入れ」

  • 誰かが旅行のお土産を配る
  • 「いつもお世話になっているので」とコーヒーを奢ってくれる

しばらくすると、

  • 「今度自分もどこか行ったら買ってこようかな」
  • 「この前奢ってもらったし、今日は自分が出しますよ」

という発想が自然と出てきます。
これが返報性の原理の、ごく素直な形です。

2. 恋愛での「好意の返報性」

  • 相手が小さなことでも褒めてくれる
  • 体調を気にしてくれる
  • メッセージの返信がていねい

こうした「さりげない好意」を受け取ることで、

この人には、自分もちゃんと返したい

という気持ちが生まれやすくなります。

「好意の返報性」として、恋愛の解説でよく取り上げられるのもこの部分です。

3. 迷惑や攻撃に対しても働く

返報性は、良い行為だけに働くわけではありません。

  • きつい言い方で責められた
  • 一方的に無視された

こうしたネガティブな経験に対しても、

言い返したい
同じように冷たくしたくなる

といった「マイナスの返報性」が働くことがあります。


マーケティングでの「返報性」:なぜ無料サンプルが多いのか

返報性の原理は、営業やマーケティングでも非常によく使われます。

1. 無料サンプル・試供品

  • スーパーで「無料試食」を配る
  • コスメのカウンターで「お試しセット」を渡す
  • サービスの「無料トライアル」を勧める

もちろん、純粋に「試してみてほしい」という狙いもありますが、同時に

「もらってしまったし、何か買った方がいいかな」

という返報性の心理も動きやすくなります。

2. 小さな「おまけ」

  • 「今だけノベルティ付き」
  • 「ご利用ありがとうございます。ちょっとしたプレゼントです」

こうした「ちょっとしたおまけ」も、

  • お客側:「ありがたい」
  • 心の奥:「これだけしてもらったし、またここを使おうかな」

という形で返報性が働きます。

3. 危ない使われ方:恩を売ってから大きなお願い

  • まずは親切やプレゼントで「良い人」を演出する
  • その後で、かなり負担の大きいお願いや勧誘をしてくる

マルチ商法や一部の宗教勧誘、悪質な営業などで見られるのは、このパターンです。

「ここまでしてもらったのに、断るのは申し訳ない」と感じさせて、
本来なら断るはずの提案を飲ませてしまうケースがあります。


返報性の原理を「自分のため」に使う

返報性は、人間関係をスムーズにするうえでは、とても役に立つ心理でもあります。

1. 小さな親切を、先に出しておく

  • 職場で、相手が困っているときに5分だけ手伝う
  • 友人が悩んでいるときに、短時間でも話を聞く
  • 恋人・パートナーに、ちょっとした差し入れをしておく

「見返りを期待してはいけない」という綺麗ごとだけで終わらせず、

自分から小さな好意を出すことで、相手も自分に好意を返しやすくなる

という「返報性の流れ」を理解しておくと、
人間関係を築くうえでの“初動”が取りやすくなります。

2. 厄介になりすぎない頼み方

何かをお願いするときに、

  • まずはこちらからできる範囲で少し協力する
  • 「前回お世話になったので、今度は自分にできることがあれば言ってください」と伝えておく

こうしておくと、「一方的に負担をかける関係」になりにくく、
お互いに気持ちよく助け合いやすくなります。


返報性から「自分を守る」視点も必要

一方で、「返報性の原理」を知っているからこそ、
悪用されないようにする視点も大事です。

1. 「その親切は、何とセットになっているか」を考える

  • やけに親切で、やけにしつこい
  • 「このくらいしてあげたんだから」と、すぐに見返りを求めてくる

こうした人には、返報性を利用したコントロール欲求が隠れていることもあります。

「ありがとう」はきちんと言いつつ、

自分が返す“単位”は、自分で決めていい

という感覚は、忘れたくないところです。

2. その場で決めず、「一度持ち帰る」

  • 何かをもらった直後に「今ならこれが特別価格で」
  • 好意を受け取った流れで、「だったらこの契約も……」

といった展開になったときは、

  • 「せっかくですが、一度家で考えてからでもいいですか」
  • 「今日はお礼だけにしておいて、判断は後日にします」

といったフレーズを、あらかじめ持っておくと安心です。

返報性のモードが強く働いているときほど、
その場の勢いで判断がぶれやすくなります。


ネガティブな返報性とどう向き合うか

返報性は「親切へのお返し」だけでなく、
ネガティブな方向にも働きます。

  • きつく言われたから、きつく返したくなる
  • 無視されたから、こちらも無視したくなる

これを完全にゼロにするのは難しいですが、
次のような切り替えもありえます。

1. 「ここで鎖を切る」という選択

  • 相手の攻撃に対して、同じ強さで返さない
  • 一度だけはスルーして、距離の取り方を変える

これは、「相手を許す」というより、

ネガティブな返報性の連鎖を、自分のところで止める

という選択でもあります。

2. ポジティブへの切り替え

  • 一度失礼な態度をとってしまった相手に対して、
    あえてていねいに接することで、自分の中のバランスを取り直す
  • 「言い過ぎたな」と感じたら、意識的にフォローの言葉や行動を足す

こうした行動も、自分なりの「返報性の調整」と捉えることができます。


まとめ:「返報性の原理」は、人間関係の“基本”

最後にポイントを整理します。

  • 「返報性の原理」とは、
    「何かしてもらったら、何かを返したい」と感じる心の働きのこと
  • デニス・リーガンの実験では、
    コーラをもらった人の方が、仕掛け役から宝くじを買う割合が高くなり、
    小さな親切が「お願いの通りやすさ」に影響することが示された
  • 日常では、
    • お土産・差し入れ
    • 恋愛の「好意の返報性」
    • マーケティングの無料サンプル
      などとして、いたるところで働いている
  • 良い使い方としては、
    • 小さな親切を先に出して、関係を温める
    • お互いに頼みやすく、助け合いやすい関係を作る
  • 気をつけたいのは、
    • 過剰な「恩売り」や、見返り前提の親切
    • 勧誘や営業で、返報性を利用して決断を急がせるやり方

人間関係のベースにあるのは、多くの場合、
「してもらったら、返したい」「迷惑をかけたら、埋め合わせしたい」という感覚です。

その性質を知っておくと、
誰かと少し仲良くなりたいときにも、
逆に、無理なお願いを飲まされそうなときにも、
自分の中で冷静な判断軸を持ちやすくなります。


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