「自己複雑性」とは?「いくつもの自分」を持っていたほうが折れにくい理由

  • 仕事でうまくいかないと、一気に自分全部がダメに感じてしまう人
  • 失恋したとき、「もう人生終わった」とまで落ち込んでしまう人
  • 逆に、同じくらい失敗していても「まぁ他にも楽しいことあるし」で立ち直れる人

この違いには、
「自己複雑性(self-complexity)」 という考え方が関わっています。

かんたんに言うと、自己複雑性は

「自分の中に、いくつの“自分”の側面・役割を持っているか」

というイメージの心理学用語です。

この記事では日常寄りで、

  • 「自己複雑性」とは何か
  • 日常の“あるある”でどう見えるか
  • 研究で分かっていること
  • 自己複雑性が高いとき/低いときのメリット・デメリット
  • 日常で「いくつもの自分」を育てておくコツ

を整理していきます。
身近な具体例とエビデンスのポイントでコンパクトに整理します。

目次

「自己複雑性」とは?(定義)

心理学でいう 「自己複雑性(self-complexity)」 は、
アメリカの心理学者パトリシア・リンヴィル(Patricia Linville)らの研究で提案された概念です。

ざっくり言うと、

「自分」を、何個の違う側面・役割として捉えているか
(そのそれぞれにどれくらい特徴・イメージを持っているか)

という度合いを指します。

たとえば、ある人の頭の中の「自分」を分けてみると:

  • 仕事の自分(会社員・バイト)
  • 友達としての自分
  • 家族の前の自分(子ども・きょうだい・親)
  • 恋人としての自分
  • 趣味の自分(音楽好き/ゲーム仲間/スポーツ仲間など)
  • 一人でいるときの自分

など、いくつかの「自分の顔」があります。

この“自分の顔”の数が多くて、それぞれに違った特徴があるほど、

「自己複雑性が高い」

とされます。

逆に、

  • 「仕事の自分」=「自分そのもの」
  • 他の役割や趣味は特にない
  • 友達関係も仕事中心

のように、「自分=一枚板」の人は、

「自己複雑性が低い」

というイメージになります。

日常での「自己複雑性」あるある(3本)

1. 仕事が全てになっている人/そうでない人

  • Aさん
    • 自分のアイデンティティのほとんどが「仕事」
    • 仕事がうまくいっているとき → 自信MAX
    • ミスや評価ダウン → 「自分という人間が終わった」感覚になる
  • Bさん
    • 仕事の他に、
      • サークル・趣味コミュニティ
      • 家族との時間
      • 学び直し(資格勉強など)
        など複数の顔を持っている
    • 仕事で落ち込んでも、
      「まあ、趣味ではうまくいってるし」
      「家族といるときは楽しいし」で、立ち直る余地がある

Aさんは 自己複雑性が低め
Bさんは 自己複雑性が高め なパターンだと言えます。


2. 失恋したときのメンタルの揺れ方

  • 自分の価値=「恋人がいるかどうか」に大きく依存しているとき
    → 失恋=自己否定に直結しやすい
  • 「恋愛の自分」は自分の一部分で、
    他にも
    • 友達といるときの自分
    • 趣味をしているときの自分
    • 家族と過ごす自分
      などがしっかりある人は、
      → 失恋しても「大事な一部は失ったけど、自分全部がダメになったわけじゃない」と感じやすい

この違いも、自己複雑性の高さ・低さに関係していると考えられます。


3. 「環境が変わると一気にしんどくなる人」と「別の場で回復できる人」

  • 異動・転職・進学などで、環境がガラッと変わったとき
  • 自分の「居場所」が、学校/会社ひとつだけだと、
    そこが合わないと 自己否定に直結しやすい
  • 一方、
    • オンラインのコミュニティ
    • 趣味の仲間
    • 家族/地元の友人
      など、複数の「自分の場」がある人は、
      → ある場所でうまくいかなくても、別の場所で支えを得やすい

これも、

「自分の人生の中に“別のチャンネル”がどれだけあるか」

という自己複雑性の問題でもあります。

自己複雑性に関する研究のポイント(ざっくり)

自己複雑性を提案したリンヴィルの研究では、
こんな方向性の結果が報告されています。

  • 自己複雑性が高い人
    • ストレスのある出来事が起きても、
      「他の自分の側面」がクッションになる
    • 感情のアップダウンが、比較的マイルドになりやすい
  • 自己複雑性が低い人
    • ひとつの領域(仕事・学業・恋愛など)で悪いことがあると、
      「自分全体がダメだ」という感覚になりやすい
    • ストレスの影響が強くなりやすい

もちろん研究によって細かい結果は違いますが、
ざっくり言うと、

「自分の中に多様な“自分”を持っていたほうが、
ストレス耐性が高くなりやすい」

という方向の知見が多いとされています。

なぜ自己複雑性がストレスや気分と関係するのか

(原因・仕組み)

1. 「一箇所のダメージ」が「全体崩壊」に変換されにくくなる

自己複雑性が高い人は、

  • 仕事の自分
  • 友達としての自分
  • 家族の中の自分
  • 趣味の自分

など、「自分の居場所」や「自分の顔」が分散している ため、

  • 仕事でミス → 「仕事の自分」は傷つく
    でも、
  • 友達といるときの自分
  • 趣味をしているときの自分

は、まだ健在です。

そのため、

「自分の一部は傷ついたけど、全部が壊れたわけじゃない」

という受け止めになることが多く、
感情の落ち込みが少しだけマイルドになります。


2. 「喜び」も「痛み」も、分散投資しているイメージ

少し経済っぽい比喩ですが、

  • 自己複雑性が低い
    → 「人生の投資先が1つの株(仕事/恋愛など)に集中」
  • 自己複雑性が高い
    → 「複数の株(仕事・趣味・人間関係など)に分散投資」

に近いです。

  • 一点集中投資 → 当たるとデカいけど、コケると大ダメージ
  • 分散投資 → 一発のリターンは小さいが、トータルの安定感が高い

自己複雑性が高い人は、
「喜びも痛みも、いくつかの側面に分散している」 ので、
メンタルの安定感が出やすいと考えられます。


3. 「いろんな自分」を知っていると、自己評価が立体的になる

自己複雑性が高い人は、

  • 仕事では「真面目な自分」
  • 友達といるときの「おちゃらけた自分」
  • 家族といるときの「やさしい自分」
  • 趣味の場での「集中している自分」

など、自分に関する“複数のストーリー” を持っています。

そのため、

  • 仕事で失敗しても、
    「私はダメ人間」ではなく、
    「仕事のこの部分が弱い。けど、人としての全体はそれだけじゃない」

と、自己評価を立体的に保ちやすいのです。

自己複雑性が低いときのデメリット

1. 小さな失敗が「人生レベルの失敗」に感じやすい

  • テストで失敗 → 「自分はもうダメだ」
  • 恋人に振られる → 「生きてる意味がない」

といった「オール・オア・ナッシング」な自己評価になりやすくなります。

もちろん、そのときのショックが大きいのは自然ですが、

「一部分の失敗と、自分全体の価値」を
いつもつなげてしまう

と、メンタルが常に危うくなります。


2. 環境の変化に弱くなりやすい

  • 入試に落ちる/進学先が合わない
  • 転職や異動で、人間関係がリセットされる

など、“その場”がうまくいかないとき、
他の自分の側面が少ないほど、

「ここでうまくいかない=人生詰み」

という感覚になりやすくなります。


3. 「自分=○○」と決めつけすぎる

自己複雑性が低い状態だと、

  • 「自分は○○な人間だ」

というラベルが強くなりすぎて、

  • 新しいことに挑戦しない
  • 役割が変わることに強い抵抗を感じる

など、変化のチャンスを逃しやすくなることがあります。

一方で、自己複雑性が高すぎる場合の注意点

研究や臨床的な指摘の中には、

自己複雑性が高すぎると、
「自分の軸がぼやける」「一貫性がなくて疲れる」
可能性もある

と言われることがあります。

  • 場面ごとにキャラを変えすぎて疲弊
  • 「結局、自分は何者なんだろう」と迷子になる

というパターンです。

なので理想は、

「複数の自分」がありつつ、
その土台にゆるい共通の価値観が通っている状態

です。

日常で「自己複雑性」を育てるコツ

1. 自分の「役割リスト」を書き出してみる

まずは、紙やメモアプリに

  • 学校/仕事の自分
  • 家族としての自分
  • 友達としての自分
  • 恋人(いたら)の前の自分
  • 趣味の自分
  • 一人でいるときの自分

など、思いつく限りの「自分の顔」を書き出してみます。

そのうえで、

  • それぞれの場で、どんな性格や強みが出ているか
  • どんなときに自分らしいと感じるか

もメモしてみると、

「あ、自分にもいろんな自分があるんだ」

という実感が少し強くなります。


2. 趣味・コミュニティを「人生のサブチャンネル」として持つ

自己複雑性を上げるうえで分かりやすいのは、

  • 趣味
  • サークル・オンラインコミュニティ
  • 学びの場(語学・資格・スクールなど)

といった 「本業以外の場」 を持つことです。

ここでのポイントは、

  • 上手くなる必要はない
  • お金になる必要もない
  • 「自分がごきげんでいられる場所」であるかどうか

です。

「ここがうまくいかなくても、あの場所なら自分を受け止めてくれる」

という感覚が、自己複雑性を支える土台になります。


3. 「○○な自分も、△△な自分も、どっちも自分」と言語化する

たとえば、

  • 「真面目な自分もいるし、だらけたい自分もいる」
  • 「人と話すのが好きな自分もいれば、ひとり時間が必要な自分もいる」

など、“矛盾しているように見える自分”を
あえてセットで言葉にしてみます。

「どちらか一方が本物で、もう一方は偽物」

ではなく、

「両方ふくめて『自分』というひとりの人間」

という捉え方になっていくと、
自己複雑性は「一貫性のないバラバラさ」ではなく、
**“奥行きのある多面性”**として感じやすくなります。


4. 「一つの役割に全てを賭けない」意識を持っておく

  • 仕事さえうまくいけばそれでいい
  • 恋人さえいれば他はいらない
  • 学校で評価されればそれで十分

といった 「一点集中の自己構成」 は、
短期的には分かりやすくても、
長期的にはメンタルリスクが高めです。

日常の中で、

  • 「仕事も大事だけど、友達との時間も大事」
  • 「恋愛も大事だけど、一人の自分も大事」

と、意識的に“複数の柱”を育てておくと、
自己複雑性の観点からも安定しやすくなります。

まとめ:「一枚板の自分」より、「多面的な自分」のほうが折れにくい

  • 自己複雑性(self-complexity) は、
    自分の中にどれくらい多くの“自分の側面・役割”を持っているか、
    という心理学の概念。
  • 自己複雑性が高いと、
    • 一つの失敗やストレスが「自分全体のダメさ」に直結しにくく
    • メンタルのアップダウンが和らぎやすい、とする研究がある。
  • 自己複雑性が低いと、
    • 仕事・恋愛・学校など、一つの領域での失敗が
      「人生終了」「自分は価値がない」という感覚につながりやすい。
  • とはいえ、高ければ無条件に良いわけではなく、
    役割が増えすぎて「自分の軸がぼやける」しんどさもありうる。
  • 日常でできる工夫としては、
    • 自分の役割リストを書き出してみる
    • 趣味やコミュニティなど、本業以外の「サブチャンネル」を育てる
    • 矛盾して見える自分もセットで受け入れる
    • 一つの役割に自分の価値を全部賭けない

といった小さなステップが、
**「いくつもの自分」を持つ感覚を育ててくれます。

「自分はこういう人間だ」と一言で言えなくても大丈夫。
むしろ、“一言で言えないくらいの自分”のほうが、
長い目で見ると折れにくく、しなやかに生きやすい

――自己複雑性は、
そんな「奥行きのある自分」を肯定するためのキーワードです。

Q&A:自己複雑性についてのよくある質問

Q1. 自己複雑性が高いほうが「絶対に良い」と考えてOKですか?

A.「高いほど無条件に良い」とまでは言えません。

研究的には、

  • 高い自己複雑性 → ストレスの影響が分散される傾向
  • ただし、あまりにバラバラだと「自分は何者?」と迷子になる可能性

という指摘もあります。

なので目指すのは、

「いろいろな自分がある」+「ゆるい共通の価値観」

くらいのバランスです。


Q2. 「いろいろな自分」を作るのが苦手です。どうすれば?

いきなり役割を増やさなくて大丈夫です。

  • 今すでにある「ささやかな役割」にも目を向ける
    • 家での自分
    • SNSでの自分
    • コンビニの店員さんと話すときの自分 など

から始めて、

「あ、ここにも自分の顔があったな」

と気づいていくだけでも、
自己複雑性に気づくきっかけになります。


Q3. 自己複雑性が高い人は「二重人格」みたいにならないですか?

A. そこまで分断しているイメージではありません。

  • 二重人格(解離性障害)は、臨床レベルの別問題
  • 自己複雑性は、
    • 「仕事の自分」
    • 「友達の前の自分」
      など、健康な範囲での多面性の話

と考えてください。

「状況に合わせて顔を変える柔軟さ」と
「土台の価値観・人柄」はちゃんとつながっている状態

をイメージすると、現実に近いです。


Q4. 「一つのことしかしてこなかった自分」は、もう手遅れですか?

A. 全然そんなことはありません。

自己複雑性は、

  • 年齢に関係なく
  • 「これからの生活の設計」で増やしていける部分

が大きいです。

  • 新しく趣味を始めてみる
  • 昔好きだったことを少し再開してみる
  • 今いるコミュニティで、いつもと違う役割を少し試してみる

といった小さな動きからでも、
「いくつもの自分」は少しずつ育っていきます。

関連記事