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- 先輩「この資料、今週中に50本ぶん作れる?」
- あなた「え、さすがに無理です…!」
- 先輩「だよね。じゃあ、10本だけお願いできる?」
……と言われると、「10本ならさっきよりマシか」と、ついOKしてしまう。
あるいは営業の場面で、
- 営業「まずは年間100万円のプランをおすすめしています」
- クライアント「いや、それはちょっと高いですね…」
- 営業「では、こちらの年間40万円プランならどうでしょう?」
最初の案は無茶ぶりに見えるのに、
2つ目は“ぐっと現実的”に見えてしまうことがあります。
このように、
わざと大きすぎるお願いをして断られたあと、
本当に通したい“本命のお願い”を出すことで、
相手のイエスを引き出そうとするテクニック
が「ドア・イン・ザ・フェイス(Door-in-the-Face)・テクニック」です。ウィキペディア+1
この記事では、日常とビジネス寄りの場面を中心に、
- ドア・イン・ザ・フェイスとは何か
- 日常・職場でどんな“あるある”として現れるのか
- 心理学的にどんな仕組みで人は折れてしまうのか
- やりすぎると何が危ないのか
- 日常や交渉で、どこまでなら“健全に”活かせるのか
を整理していきます。
身近な具体例とエビデンスのポイントでコンパクトに整理します。
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「ドア・イン・ザ・フェイス」とは?
「ドア・イン・ザ・フェイス」テクニックは、
最初に“どうせ断られる”レベルの大きな要求を出し、
相手に断らせたうえで、
その後に出す本命の小さめ要求を通すテクニック
です。ウィキペディア+1
典型的な流れはこんな感じです。
- **大きなお願い(無茶ぶり)**をする
- 相手がそれを断る
- すぐにもっと小さく、現実的なお願いを出す
- 相手は「さっきよりマシだし、譲ってくれたし」と感じてOKしやすくなる
対になる有名なテクニックとして、小さなお願いから始める
**「フット・イン・ザ・ドア(Foot-in-the-Door)」**もありますが、
ドア・イン・ザ・フェイスはその「逆方向」だと考えるとイメージしやすいです。ウィキペディア+1
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日常・ビジネスでの「ドア・イン・ザ・フェイス」あるある
1. 友人からの「無茶ぶり → じゃあこれだけ」
- 友人「今度のイベント準備、丸一日手伝ってもらえない?」
- あなた「いや、さすがに一日はきつい…」
- 友人「そっか…。じゃあ、当日の午前中だけ手伝ってくれない?」
こう聞かれると、
- 「丸一日」よりはだいぶ軽く感じる
- 断った負い目もある
- 「そこまで言うなら、午前だけなら…」となりやすい
これは、かなり教科書どおりのドア・イン・ザ・フェイスです。
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2. 営業トークの「フルプラン → ミニプラン」
- 営業「まずはフルサービスの年間契約(100万円)をご提案しています」
- クライアント「さすがに予算オーバーですね…」
- 営業「ですよね。では、機能を絞った年間40万円のプランはいかがでしょう」
もし、最初から40万円プランだけを提示されていたら、
「うーん、高いな」と感じていたかもしれません。
でも、
100万円 → 40万円
という比較の枠組みの中に入ると、
「半分以下なら、現実的かもしれない」と感じやすくなります。psychologistworld.com+1
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3. 上司・先輩からの「とりあえず高めにふっかける」依頼
- 上司「とりあえず3案くらい、プレゼン資料作ってみて」
- あなた「3案はちょっと…他の仕事もあるので大変です」
- 上司「そうか。じゃあ、まずは2案にしようか」
本音では1案でも十分かもしれませんが、
「3案 → 2案」の流れのなかで、
- 「最初より軽くなった」
- 「譲ってくれた」
と感じて、2案でも“仕方ないか”と受け入れてしまうことがあります。
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実験で見る「ドア・イン・ザ・フェイス」
1. チャリティの有名な実験(シアディーニら, 1975)
社会心理学者ロバート・シアディーニらは、
学生ボランティアに対して、次のようなお願いをしました。Massachusetts Institute of Technology+1
- まず、「非行少年の更生施設で2年間ボランティアをしてくれないか」と頼む
- ほとんどの学生が当然「NO」と答える
- その後、「じゃあ1日だけ、少年たちを動物園に連れて行くボランティアはどう?」と頼む
結果:
- いきなり「動物園のボランティア1日」をお願いした場合よりも
- 「2年ボランティア」→断らせる→「1日動物園ボランティア」の順番でお願いしたほうが、
OKする学生の割合が明らかに高かったのです。Massachusetts Institute of Technology+1
つまり、
最初の“無茶ぶり”が、
後から出てくる本命のお願いを「ぐっと軽く」見せてしまう
ということが、実験的にも示されています。
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2. メタ分析で見る「効果の大きさ」
その後、多くの研究が行われ、
ドア・イン・ザ・フェイスの効果をまとめたメタ分析では、
- 効果の大きさは**「小~中くらい」**
- 条件がそろえば、それなりに有効
- とくに**「すぐに2つ目のお願いをする」「ある程度“善意”の話題である」**場合に効きやすい
といった傾向が報告されています。OUP Academic+1
「やれば絶対通る魔法の技」ではありませんが、
日常やビジネスで“ちょっと有利になる”レベルのテクニックだと考えると現実的です。
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なぜ「ドア・イン・ザ・フェイス」が効くのか(原因・仕組み)
1. 「譲ってくれたから、自分も譲らないと」という返報性
シアディーニらは、このテクニックを
**「譲歩の返報性(reciprocal concessions)」**として説明しました。Massachusetts Institute of Technology+1
- 相手「2年間ボランティアして」
- 自分「それは無理」
- 相手「じゃあ、1日だけでいいよ」
このとき、私たちは
「相手が大きく譲ってくれたから、自分も少し譲ろう」
という気持ちになりやすくなります。
ビジネスの交渉でも、
- 最初は高い条件を出す
- 相手に断られたあと、少し下げる
という流れで、
「お互いに少しずつ折り合っている感じ」
をつくることで、合意が生まれやすくなるのです。PsychoTricks+1
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2. 「対比効果」で2つ目の要求が軽く見える
心理学では、連続して提示されたもの同士が比べられてしまう現象を
**「コントラスト効果(対比効果)」**と呼びます。PsychoTricks+1
- 100万円のプランを見たあとに40万円プランを見る
- 3案の依頼を聞いたあとに2案の依頼を聞く
このように、
大きい要求 → 小さい要求
と並べて見せられると、
2つ目の要求が**「実際以上に軽く」「妥当なもの」に感じられる**のです。
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3. 相手との関係を壊したくない気持ち
相手との関係性も重要です。
- 友人や同僚など、今後も付き合いが続く相手
- お世話になっている上司や取引先
からのお願いを2回連続で断るのは、
**「冷たく見られそう」「関係が悪くなりそう」**という不安があります。
そのため、
- 1回目は断る
- 2回目は「これ以上断るのも悪いし…」と折れてしまう
という流れが生まれやすくなります。psychologistworld.com+1
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「ドア・イン・ザ・フェイス」のデメリット・注意点
1. バレると一気に信頼を失う
相手が、
- 「最初の要求は、どうせ断らせるための“フリ”だったんだな」
- 「最初から2つ目が本命だったんでしょ」
と気づいた瞬間、
「駆け引きでコントロールされている」
と感じ、信頼が一気に下がります。
ビジネスでは、とくに
- 価格交渉
- 契約条件のすり合わせ
の場面でやりすぎると、
「この会社はいつもふっかけてくる」というレッテルを貼られかねません。pon.harvard.edu+1
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2. 無茶ぶりが現実からズレすぎると逆効果
- 法外な価格
- 物理的に不可能な納期
- 相手の立場をまったく無視した要求
など、「常識の範囲」をあまりに超えた無茶ぶりは、
「この人、現場知らないな」
「まじめに話す気がない」
と受け取られ、2つ目の要求まで一緒に嫌われる可能性があります。PsychoTricks+1
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3. 連発すると「めんどくさい人」扱いになる
毎回のように、
- まず無茶ぶり
- それから本命
というパターンを繰り返していると、
- 「またこのパターンか」
- 「最初の話、聞くだけムダ」
と感じられて、真剣に相手にされないこともあります。
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日常・ビジネスでの「健全な付き合い方」
1. 「テクニックで人を動かす」より「交渉の一つの型」として知っておく
まず大事なのは、
「相手を操る裏ワザ」ではなく、
“よく使われる交渉パターンの1つ”として知っておく
という距離感です。
- 営業や値下げ交渉で使われやすい
- 要求の強さの出し方としてよく出てくる
と理解しておくことで、
- 「あ、今これやられてるな」
- 「自分も、最初の案は“枠組みづくり”だと意識しておこう」
と、冷静に観察する側にも回りやすくなります。psychologistworld.com+1
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2. 使うなら「現実的な範囲+相手にメリットがあるライン」で
もし自分が使うなら、
- 実際にやってもらえたら助かるレベルの上限を「1発目」に置く
- 2つ目の要求も、相手にとってメリットがある(完全な一方的負担ではない)内容にする
といったラインを守ると、まだ現実的です。
例:
- 「資料10ページ作って」→「じゃあ重要な5ページだけ」
- 「今週中に3本提案書を」→「まず優先度の高い1本だけ」
など、相手の時間や体力を完全には無視しない範囲で使うイメージです。
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3. された側のときは、「2つ目も一度持ち帰る」選択肢を持つ
ドア・イン・ザ・フェイスを“仕掛けられた側”になったときは、
- 「最初よりマシだから…」だけで即決しない
- 2つ目の要求も、最初から単独で提示されたと想定して評価し直す
ことが大事です。
ビジネスなら、
- 「一度社内に持ち帰って検討します」
- 「他社の条件とも比較させてください」
とクッションを置くことで、
その場の「返報性」や「罪悪感」に押し流されにくくなります。
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まとめ:無茶ぶりのあとに“本命”を通す心理テクニック
- ドア・イン・ザ・フェイスは、
最初に大きすぎる要求を出して断らせ、その後に出す本命の小さめ要求を通しやすくするテクニック。ウィキペディア+1 - 背景には、
- 「相手が譲ってくれたから、自分も譲らないと」という返報性のルール
- 大きな要求と比べることで2つ目が軽く見える対比効果
- 関係を壊したくない気持ち
などが働いている。Massachusetts Institute of Technology+1
- 研究やメタ分析では、
- 効果は「小~中程度」で、条件がそろうとそれなりに有効
- とくに、すぐ次の要求を出す/ある程度“善意”の話題で使うと効きやすい
といった傾向が示されている。OUP Academic+1
- 一方で、
- バレると信頼を失う
- 無茶ぶりが現実離れしていると逆効果
- 連発すると「めんどくさい人」扱い
といったリスクも大きい。pon.harvard.edu+1
- 現実的な使い方としては、
- 「人を操る裏ワザ」ではなく、よくある交渉パターンとして理解する
- 使うなら現実的な範囲と相手のメリットを守る
- 仕掛けられたときは、2つ目の要求も“一度持ち帰って評価し直す”
というスタンスが、日常やビジネスでちょうど良い距離感です。
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Q&A:ドア・イン・ザ・フェイスについてのよくある質問
Q1. ドア・イン・ザ・フェイスは、営業や値下げ交渉で本当に使われているのですか?
A. はい、研究レベルだけでなく、
実際の対面営業・価格交渉・募金活動・オンライン寄付などでも使われていることが報告されています。psychologistworld.com+2SciSpace+2
ただし、あからさまにやると不信感を生みやすいため、
「最初は上限に近い条件を出し、そのあと譲歩する」というごく自然な形で使われることが多いです。
Q2. 「フット・イン・ザ・ドア」とはどう違うのですか?
A. 大まかに言うと、順番が逆です。
- フット・イン・ザ・ドア:
小さなお願い → OKしてもらう → そこから大きなお願いへ広げる - ドア・イン・ザ・フェイス:
大きなお願い → 断らせる → そこから本命の小さめなお願いを出す
どちらも「2段階でお願いする」点は同じですが、
最初のお願いの“大きさ”が逆方向になっています。ウィキペディア+2PMC+2
Q3. ビジネスで使うのは、倫理的に問題ありませんか?
A. どのレベルまでやるかによります。
- 実際に可能な上限から交渉を始め、譲歩しながら落としどころを探る
→ 一般的な交渉の範囲 - 最初の要求が、最初から「通す気がない」「相手を罪悪感で縛るためだけ」といったレベル
→ 信頼を損なうリスクが高く、倫理的にもグレー/アウト寄り
長期的な関係が前提のビジネスでは、
相手の判断力を尊重しつつ、お互いの条件をすり合わせる方向性のほうが結果的に得です。
Q4. 交渉に弱くて、すぐ「2つ目の案」に飲まれてしまいます。どうしたらいいですか?
A. コツはシンプルで、
- 「最初の無茶ぶり→本命」というパターンがあると知っておく
- 2つ目の案も、
「もし最初からこれだけを提示されていたら、どう感じるか?」
と頭の中で切り離して評価し直す - 可能なら「一度持ち帰って検討します」と、その場で決めない
という3ステップを意識してみてください。
「相手が譲ってくれたし…」という感情だけで決めるのではなく、
条件そのものを冷静に評価するクセをつけると、だいぶ楽になります。
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