【分類:認知バイアス・意思決定】
スマホゲームで、どうしても欲しいキャラクターが出ない。
最初は、3,000円だけだった。
出ない。
「まあ、あと1回くらい」
出ない。
気づけば1万円を超えている。
ここでやめれば、それ以上お金は減りません。
でも頭の中では、
「ここまで課金したのに、何も出ずに終わるほうがもったいない」
となってくる。
そして追加で課金する。
欲しかったキャラクターを手に入れるために始めたはずなのに、途中から**「今まで使ったお金を無駄にしないため」**にガチャを回している。
冷静に見ると、少しおかしな話です。
すでに使った1万円は、次のガチャを当たりやすくしてくれるわけではありません。それでも「ここまで使ったんだから」と続けたくなることがあります。
このように、すでに使ってしまったお金・時間・労力を惜しんで、その後の判断まで引っ張られてしまう現象は「サンクコスト効果」と呼ばれます。
日本では「コンコルド効果」という名前で紹介されることもあります。
サンクコスト効果とは?
「サンクコスト(sunk cost)」は、日本語では埋没費用と訳されます。
簡単に言えば、
もう戻ってこないお金・時間・労力
のことです。
先ほどのガチャなら、すでに使った1万円。
行列なら、すでに並んだ1時間。
仕事なら、ここまで企画に使った半年間。
恋愛なら、これまで一緒に過ごした年月や、その関係にかけてきた努力も考えられます。
これらは、今この瞬間に「続けるか、やめるか」を選んでも戻ってきません。
本来なら「今までいくら使ったか」ではなく、**「ここから先も続ける価値があるか」**で考えたほうがいいのですが、実際その場面になると、
「ここまで来たのに」
「今さらやめたら全部無駄になる」
「あと少し続ければ取り返せるかもしれない」
と、過去に使ったものが現在の判断へ入り込んできます。
お金を多く払った人ほど、劇場へ通った
サンクコスト効果の代表的な研究が、Hal ArkesとCatherine Blumerによる1985年の研究です。
研究者たちは、オハイオ大学の劇場でシーズンチケットを買おうとした最初の60人を対象に、実際のお金を使ったフィールド実験を行いました。
参加者はランダムに、
- 通常価格の15ドル
- 2ドル引き
- 7ドル引き
のいずれかでシーズンチケットを購入しました。
買った後に見られる舞台は同じです。
すでにチケットを持っている以上、その日に劇場へ行くかどうかを決めるとき、過去に15ドル払った人と8ドル払った人で舞台そのものの面白さが変わるわけではありません。
ところが、シーズン前半の5公演で一人あたり平均何公演を見に行ったかを比べると、次のような違いがありました。
| チケット代 | 前半5公演のうち平均で見に行った回数 |
|---|---|
| 通常価格15ドル | 約4.1回 |
| 2ドル引き | 約3.3回 |
| 7ドル引き | 約3.3回 |
つまり、通常価格を払った人たちは、割引で買った人たちより前半の公演へ多く足を運んでいました。
ただし、この差はシーズン後半では確認されませんでした。研究者たちは、購入から時間がたつにつれてサンクコストの影響が薄れた可能性を考えています。
同じ論文では、こんな質問も行われています。
100ドル払ったスキー旅行と50ドル払ったスキー旅行の日程が重なってしまった。ただし、自分では50ドルの旅行のほうが楽しめそうだと思っている。
どちらか一方しか行けないとなった場合。
普通に考えれば、これから楽しめそうな50ドルの旅行を選べばいいはずです。
しかし回答した61人のうち、33人は料金の高かった100ドルの旅行を選びました。
「100ドルも払ったのに行かないのはもったいない」が、これからの楽しさより前に出てしまったと考えられます。
1時間並んだ店、今さら抜けられる?
お金だけではありません。
人気店へ行ったら長い行列ができていた。
最初は、
「30分くらいなら待つか」
と思って並ぶ。
30分経過。
まだ入れない。
さらに30分。
友人から、
「もう別の店行かない?」
と言われる。
この時点で近くに空いている店があるなら、そちらへ移ったほうが早く食べられるかもしれません。
それでも、
「いや、もう1時間並んだし……」
となる。
ここで面白いのは、その1時間は列を抜けても抜けなくても戻ってこないことです。
あと40分待つのか、5分で入れる別の店へ行くのか。
本当はそこから先だけを比べればいいのですが、「今抜けたら1時間が無駄になる」と考えてしまう。
そしてさらに40分並んだころには、
「もうここまで来たら最後まで並ぶ」
になっている。
1時間を惜しんで、追加の40分まで差し出してしまうわけです。
恋愛では「5年付き合ったから」が判断に入ってくる
恋愛になると、話はもう少し複雑です。
長く付き合っている恋人がいる。
最近は会っても楽しくない。喧嘩も増え、このまま付き合いたいのか自分でも分からなくなっている。
それでも別れを考えたとき、
「5年も付き合ったのに」
「ここで別れたら今までの5年は何だったんだろう」
と思うことがあります。
実際、恋愛関係でもサンクコスト効果を調べた研究があります。
Rêgo、Arantes、Magalhãesは、うまくいっていない関係を続けるか終えるかというシナリオを使って実験しました。
実験1では902人を対象に、関係へ投じた時間・お金・努力などの条件を変えています。その結果、お金や努力を多く投じた条件では、関係を続ける選択が増えました。 一方、この実験では時間について同じ効果は確認されませんでした。
そこで方法を変えた実験2では275人を対象に、すでに関係へ費やした時間を変えて、その後どれくらい関係を続けようと思うかを調べました。こちらでは、長い時間を費やした関係ほど、さらに時間を投じようとする傾向が確認されています。
ただし、現実の恋愛を、
「長く付き合っているのに別れられない=サンクコスト効果」
と決めつけるのは違います。
5年付き合えば、相手への気持ちだけではなく、共通の友人、家族との関係、同棲、生活環境、将来の予定など、いろいろな事情が増えてきます。
だから考えたいのは、
「5年付き合ったこと」そのものを理由に、これからの5年まで決めようとしていないか。
というところです。
今まで一緒にいた時間が大切だったことと、これからも一緒にいるほうがいいことは、必ずしも同じではありません。
もちろん、喧嘩が増えたから即別れようという話でもありません。
一度きちんと話した結果、
「最近お互い忙しくて余裕なかったな」
となり、関係を立て直せることだってあります。
過去の5年だけを理由に続けるのか、今の二人を見たうえで続けたいのか。
同じ「付き合い続ける」でも、理由はかなり違ってきます。
ギャンブルの「ここまで負けたんだから、取り返すまで」
サンクコスト効果を考えるうえで、ギャンブルも外せない場面です。
たとえば、最初に1万円負けた。
ここで帰ればマイナス1万円です。
でも、
「このまま1万円負けて帰るのは嫌だ」
「せめて元に戻してから帰りたい」
と続ける。
さらに5,000円負ける。
すると今度は、
「1万5,000円も負けたまま帰れるか」
となる。
取り返すために続けていたはずなのに、取り返さなければならない金額のほうが増えていく。
ギャンブル研究では、こうした「負けを取り戻そうとして賭け続ける」行動は**loss chasing(損失追跡)**と呼ばれています。
2014年に10,838人のインターネットギャンブル利用者を調査した研究では、損失追跡を報告した人ほど、ギャンブルに使う時間やお金が多く、ギャンブルについて非合理的な考えを持つ傾向も強いことが報告されています。
2023年のレビューでも、損失追跡は「負けた後も続ける」「賭け金を増やす」「別の日に戻って損失を取り返そうとする」など、いくつか違った行動として研究されていることが整理されています。
ただし、ギャンブルで負けを追いかける理由を全部サンクコスト効果だけで説明することはできません。
「そろそろ当たるはず」と考えるギャンブラーの誤謬、興奮、衝動性、勝った経験など、ほかの要因も絡みます。
それでも、
「ここまで負けたんだから、取り返さないとやめられない」
という考えに、過去の損失が現在の判断を引っ張っている部分があることは分かりやすいでしょう。
負けた1万円は、次の勝負の勝率を上げてはくれません。
投資でも「買った値段」が頭から離れない
投資でも似た考え方は出てきます。
ある株を10万円で買った。
その後、価格が6万円まで下がった。
ここで、
「10万円で買ったんだから、10万円に戻るまでは売れない」
と考える。
気持ちとしては分かります。
6万円で売れば、4万円の損失が数字として確定します。
ただ、今後その株を持ち続けるかどうかを考えるとき、本来見るべきなのは、
「自分はいくらで買ったか」
だけではありません。
今6万円を持っていたとして、それでもこの株を買いたいと思うか。
と考えると、少し違った見え方になります。
10万円で買った事実は変えられません。
それでも「10万円を取り返すまでは」と過去の価格を基準にすると、今後の判断までそこへ縛られる可能性があります。
もちろん、だから下がったら売ればいいという話ではありません。将来の見通し、リスク、投資目的などで判断は変わります。
ここで問題になるのは、「昔いくら払ったか」だけが継続する理由になっていないかということです。
会社では「半年やった企画だから」がさらに厄介になる
個人なら、自分一人でやめると決めれば終わることもあります。
会社はそう簡単ではありません。
半年かけて新規サービスを作った。
人も入れた。
広告費も使った。
ところがテスト販売をしてみると、思ったほど需要がない。
会議で、
「一旦中止して別の商品に集中したほうがいいのでは?」
という話が出る。
すると、
「ここまで半年やってきたんだぞ」
「これだけ予算も使ってる」
「今さら中止にはできない」
という意見が出てくる。
半年やった事実は、このサービスが来年売れる証拠にはなりません。
でも、プロジェクトが大きくなるほど、お金だけではなく、
「自分が決めた企画だから」
「失敗を認めたくない」
「部下にここまでやらせた」
といった事情まで入ってきます。
こうして「やめる判断」そのものが難しくなっていきます。
サンクコスト効果が「コンコルド効果」とも呼ばれる理由
この別名のもとになったのが、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルドです。
1962年に英仏政府の協定から始まった計画で、当初から大規模なプロジェクトでした。
しかし開発費は膨らんでいきます。
英国議会の記録を見ると、1962年時点の開発費見積もりは英仏合計で1億5,000万〜1億7,000万ポンド程度でしたが、1972年には9億7,000万ポンド、1973年には10億6,500万ポンドという見積もりまで増えていました。
こうした経緯から、「すでに巨額を投じた計画から撤退できない」象徴としてコンコルドが引用され、サンクコストの問題は「Concorde fallacy」「Concorde effect」と呼ばれるようになりました。
ただし、ここは少し注意が必要です。
実際のコンコルド計画が、単純に「ここまで金を使ったから」という理由だけで続いたわけではありません。
当時は英仏間の国際条約、雇用、国家的な威信、航空産業、フランスとの外交関係なども絡んでいました。1964年には英国政府が計画中止を検討したものの、英仏協定が国際条約として結ばれていたことが大きな問題になったことも歴史研究で指摘されています。
つまり、「政府がサンクコスト効果にハマってコンコルドを作り続けました」と一行で説明すると、実際の歴史をかなり削りすぎます。
名前は有名でも、現実の大型プロジェクトは心理学一つで片づけられるほど単純ではありません。
なぜ人は「もったいない」から離れにくいのか
ArkesとBlumerは、サンクコスト効果の背景として、自分が無駄なことをしたと思いたくない気持ちに注目しています。
ガチャに1万円使って何も出なかった。
そこでやめれば、
「1万円使って終わった」
になります。
もう1回回せば、
「まだ終わってない。次で出るかもしれない」
にできる。
会社でも、
「半年かけた企画を中止する」
と決めれば、これまでの判断を失敗として認めるように感じる人がいるかもしれません。
続けている間は、
「まだ結果が出ていないだけ」
と言えます。
恋愛でも、
「5年間の関係を終わらせる」
ことを、
「5年間を無駄にする」
と感じてしまうことがあります。
でも、ここには少し飛躍があります。
別れたからといって、楽しかった時間や経験まで消えるわけではありません。
企画を中止したからといって、その半年で得た知識まで全部ゼロになるわけでもない。
過去を無駄にしたくない気持ちと、これから何を選ぶかは、本来別の問題です。
サンクコスト効果に気づいたら「今から始めるなら?」で考える
サンクコストを完全に無視するのは、言うほど簡単ではありません。
そこで判断に迷ったときは、
「もし今日初めてこの状況を見たとして、それでも同じ選択をするか?」
と考える方法があります。
ガチャなら、
「ここまで1万円使ったから」ではなく、欲しいキャラクターのために、ここからさらに3,000円使っても後悔しないかを考える。
行列なら、
「もう1時間並んだから」ではなく、ここからさらに40分待ってでも、この店で食べたいかを考える。
仕事なら、
「半年かけた企画だから」ではなく、今日初めて企画書を見せられたとして、さらに半年と予算を出したいと思うかを考える。
恋愛なら少し慎重に考える必要がありますが、
「5年付き合ったから」ではなく、
「今のこの人と、これからも一緒にいたいか」
を考える。
過去を消す必要はありません。
過去に払ったものを、未来へ追加で払う理由にしない。
このくらいの距離で考えると、判断はしやすくなります。
食べ放題でも、人は過去のお金と戦っている
最後に、こんな場面も見てみます。
4,000円の食べ放題へ行った。
かなり食べた。
もう普通にお腹いっぱいです。
ここで帰れば満足して終われる。
しかし、
「4,000円払ったんだから、もう少し食べないともったいない」
とデザートを追加し、さらには
「肉ももう一皿いけるか」
となる。
最終的には、
「もう何も食べたくない」
と言いながら店を出る。
4,000円分楽しむつもりだったのに、帰り道で「もうしばらく肉は見たくない」となっていたら、何のために無理して食べたのか分からなくなります。
こういう小さな場面にも、「もう払ったんだから」という過去のお金が入り込んできます。
まとめ
サンクコスト効果とは、すでに使って戻ってこないお金・時間・労力を惜しむあまり、現在の判断まで引っ張られてしまう現象です。
ガチャの、
「ここまで課金したんだから」
ギャンブルの、
「負けを取り返すまでは」
恋愛の、
「5年も付き合ったんだから」
会社の、
「半年かけた企画なんだから」
言葉は違いますが、「今まで使ったものを無駄にしたくない」というところは似ています。
ただ、長く続けること自体が悪いわけではありません。
続ける理由が、
「これからも価値があるから」
なのか、
「ここまでやったから今さらやめられない」
なのか。
そこを分けて考えるだけでも、見えるものはかなり違ってきます。
Q&A
サンクコスト効果とコンコルド効果は違うものですか?
一般には、かなり近い意味で使われています。
学術研究では「sunk cost effect」「sunk cost fallacy」という表現が一般的で、「コンコルド効果」はコンコルド計画を象徴的な例として使った呼び名です。
この記事では、より一般的な名称である「サンクコスト効果」を中心に説明しています。
ギャンブルで負けを取り返そうとするのもサンクコスト効果ですか?
サンクコストと似た考え方が関係する場合はありますが、それだけでは説明できません。
ギャンブルでは、損失追跡、ギャンブラーの誤謬、衝動性など複数の要因が関係します。特に「負けた分を取り戻すために続ける」損失追跡は、問題のあるギャンブルとの関連が研究されています。
長く付き合った恋人と別れないのもサンクコスト効果ですか?
それだけでは判断できません。
長期間の恋愛には愛情、生活、家族、将来設計などさまざまな理由があります。
ただし「今後も一緒にいたいから」ではなく、「ここまで何年も付き合ったから別れるのがもったいない」だけが主な理由になっている場合は、サンクコストに似た判断が入り込んでいる可能性があります。
サンクコスト効果を防ぐ方法はありますか?
完全になくすのは難しいですが、
「今までいくら使ったか」
と、
「ここから先に払う価値があるか」
を分けて考える方法があります。
「もし今日初めてこの選択肢を見たとしても続けるか?」と考えるのも、一つの判断材料になります。
関連記事
- 認知的不協和とは?「自分で選んだのにモヤモヤする」心理
- 損失回避とは?得する喜びより損する痛みを大きく感じる理由
- ギャンブラーの誤謬とは?「そろそろ当たるはず」と考えてしまう心理
- 現状維持バイアスとは?変えたほうがよくても今のままを選んでしまう理由
参考文献・出典
- Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The Psychology of Sunk Cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140. DOI: 10.1016/0749-5978(85)90049-4.
- Rêgo, S., Arantes, J., & Magalhães, P. (2018). Is there a Sunk Cost Effect in Committed Relationships? Current Psychology, 37, 508–519. DOI: 10.1007/s12144-016-9529-9.
- Gainsbury, S. M., Suhonen, N., & Saastamoinen, J. (2014). Chasing losses in online poker and casino games: characteristics and game play of Internet gamblers at risk of disordered gambling. Psychiatry Research.
- Banerjee, N., Chen, Z., Clark, L., & Noël, X. (2023). Behavioural expressions of loss-chasing in gambling: A systematic scoping review. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 152, 105377.